妹と弟とシグ・ザウエルP226
 

プロローグ

 次々と跳ね上がるマンターゲット。
 俺はその額を手中のオートマチックガン、左利き用にカスタマイズされたシグ・ザウエルP226で撃ち抜いていく。
 反動でぶれそうになる銃身を両腕の力で押さえ込み、トリガーを引き絞る。
『例えば、お前が誰かに銃を向けられたとしよう』
 イヤープロテクターを通して聞こえる乾いた破裂音。 
『そしてお前の手の中にも銃がある』
 銃口が火花を散らし、衝撃が腕を突き抜ける
『死にたくなければ急所を外そうなどという事は考えるな』
 弾き出された薬莢が視界の端をかすめる。
『たった一本の指に残ったトリガーを引くだけの力がお前を殺す』
 硝煙の匂いが鼻の奥を刺した。
『確実に殺せ。頭を、心臓を撃ちぬけ。即死させろ』
 俺に銃の扱い方を教えた人間の言葉。
 とてもじゃないが父親が息子に向かって言うことだとは思えない。まったくもってとんでもないオヤジだ。
 だが今俺が行っている事は、オヤジの言葉を確実に実行するための訓練だった。
 絶対に死ねない訳がある。
 生きて守らなければならないものがある。
 銃口が弾倉に残った最後の一発を吐き出した。
 長く尾を引く銃声がコンクリート壁に染み込むように広がり、やがて消える。
 銃を目の前のカウンターに置いた俺はイヤープロテクターを首にかけ、大きく息を吐いた。
 手に残った痺れを逃がすように何度も拳を握ったり開いたりする。
 痺れがとれた所でじっと自分の手を見つめてみた。何のことはない。唯の手だ。
 啄木のように詩が浮かんでくる事もない。
 俺はもう一度拳を握り、開いて銃を取ろうとした。
 と、胸ポケットの携帯電話が合わせておいた時間を知らせるべく震え出す。
 突然の振動に少々驚いたが、もうそんな時間か、と携帯電話取り出しアラームを解除した。時刻は午前七時。
 よっしゃ。起こさなきゃな、あいつら。で、朝飯はどうしよう。とりあえず卵を焼いて……
 そんなことを考えつつイヤープロテクターを壁にかける。
 味噌汁、味噌汁。具は? 豆腐はある。えーっと、あぁ、ワカメがあったな、確か。
 銃を片手に俺は斜め右上を見つめた。意味はない。
 そういや油が減ってたんだっけ。買ってこなきゃ。
 地下射撃場と自宅とをつなぐ薄暗い階段を上がっていく。響く足音は相変わらず硬い。
 階段を登り切った所にある扉を開けると日常生活の匂いがした。
 扉を後ろ手に閉めたところで大きく伸びをする。
 さぁ、今日も一日頑張りますか。

               小説の目次へ  次ページへ