武器屋リードの営業日誌

ライン

プロローグ

 木製の雨戸を開け放った俺は店の前で大きく伸びをした。差し込んだ朝日が店内を照らし出し、商品を闇から浮き上がらせる。
 短剣、片手剣、片手半剣、両手剣、戦斧に槍、戦槌。
 武器の事なら何でもお任せ。きっとあなたに合った一品をお探しします、ってな。
 胸中で言って空を見上げる。
 薄く、高い青の下を二羽の小鳥が踊るように飛んでいた。
 うん、商売日和だ。
「いつも通りだね」
 声をかけられ視線を落とせば顔なじみのリンゴ売りの少年だった。
「時間厳守。商売の基本だ」
 あらかじめポケットに用意してあったコインを少年に向かって投げる。と同時に真っ赤なリンゴが飛んできた。
「そっちもいつも通りだな」
 リンゴを服でこすりながら言う。
「あったりまえさ。商売の基本だよ」
 にっ、と笑って見せた少年に苦笑しながらリンゴを齧る。多少、というかかなり酸っぱかったが完全に目は覚めた。
 まぁ体に良さそうな味だこと。
 顔を皺だらけにした俺を見た少年が篭からもう一つリンゴを投げてよこす。
「そっちは多分甘いよ」
「ありがたいけどもうコインを持ってない」
「お金はいいよ。お得意さんにサービス」
 少年はおどけた風に手を広げて見せた。
「悪いな」
「商売の基本だよ。気前のいいお客さんは大事にしないとね」
 意味ありげに笑う少年。
 そうくるか。ちゃっかりしてやがるなぁ。
「明日からは二個買うよ。気前のいいお客さんだからな」
「毎度あり」
 会心の笑みを浮べ、少年は走っていってしまった。
 齧りかけのリンゴをもう一度口にする。どこか一箇所ぐらい甘い部分があるんじゃないかと思ったが、その期待はものの見事に裏切られた。顔のパーツが全て真ん中に寄ってしまったような気になる。
 キクなぁ。
 何はともあれ、開店だ。

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